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トレーニング理論①【複雑系としてのサッカー】

こんにちは。
総監督の吉廣カズです。

11月から福岡南ユナイテッドの体験が始まっています。
これまで参加して頂いた方々、ありがとうございます。
そしてこれから参加の皆様、ぜひ体験会を楽しんで行ってください!

体験会ではなかなか伝えきれない部分もあるので、今回はトレーニング理論についてお話ししたいと思います。

目次

指導の中心的概念【サッカーを複雑系として捉える】

これまで日本、スペインでたくさんの理論を学んできましたが、僕の指導におけるメソッドともいえるトレーニング理論について話してみたいと思います。

膨大な考え方の中からの中心的な概念だけをピックアップするつもりですが、それでもかなり長くなる可能性があるので、数回にわたってお話し致します。

まずは当然ながら現代サッカーの前提条件である『複雑系』関連について。

サッカーとは複雑系である

これまで僕が学んできた理論の中心は『サッカーは複雑系のスポーツである』という事です。
これは従来の要素還元論的な指導方法と異なり、テクニックスキルの獲得、戦術理解、チームの機能性など、すべての考え方の根本をなします。

選手個人の成長もチームとしての成長も、複雑系だからこそ『線形』ではなく『非線形』的なものになります。

また試合においても同じく複雑系の事象なので、パフォーマンスを向上させるには、このコンプレックスシステムを何らかの形でコントロールしないといけません。

完全にコントロールすることは無理ですが(そもそも複雑系なので)、いくつかの複雑系が持つ要素を調整しながらシステム自体の成長を促します。

余談ですがシステムとは何か?と言いますと、以下の3つを満たしているものがシステムと呼ばれます。

①要素
②相互のつながり
③機能または目的

ドネラ・H・メドウズ著『世界はシステムで動く』の中で、著者はこのように定義しています。

まさにサッカーチームそのものですね。

また『システム自体の成長を促す』と表現しましたが、これは『チームという組織』という意味だけではなく、個人も1つのシステムですし、グループでもシステムとして捉えています。

自己組織化

この複雑系と呼ばれるシステムが持つ特徴、もしくはよく機能するシステムに必要不可欠なもの、と言っても良い要素に『自己組織化』という概念があります。

辞書によると以下のように定義されています。

各要素がシステム全体を俯瞰する能力を持たないにも関わらず、要素の自律的な振る舞いの結果として秩序を持つ大きな構造を作り出す現象や性質。

これは僕の戦術指導の中心をなす概念であり、いつもトレーニングに取り入れています。

重要なのは『各要素が全体を俯瞰する能力がなくても、個々の自律的な振る舞いの結果として秩序やパターンを生み出す』こと。

この『自己組織化』という現象は生命現象や生態系、気象現象や人間社会など、あるゆるシステムが上手く機能するために必要な要素となります。

この自己組織化という概念は複雑系が持つ重要な要素であり、この要素を上手くサッカーに取り入れることで選手の成長を促します。

以下は複雑系に関連する辞書の内容です。

個々の要素の振る舞いや局所的な擾乱(じょうらん)が系全体に大きな影響を及ぼす非線形、複雑で予測不可能な振る舞いの中にも一定の秩序が形成される自己組織化といった特性をもつ。

僕のサッカー指導における大事なポイントは『局所的な個々の振る舞いが全体に影響を与える』部分です。

この『自己組織化』、とても難しい概念に聞こえますが、皆さんも日常的に目にしたことがあるものです。

例えば『イワシの大群の群れ』。
水族館などでたくさんのイワシが大きな群れをなし、まるで大きな一匹の魚のようにまとまって泳いでいるのを見たことがあると思います。

他にも、鳥の群れが何らかの秩序やパターンを形成する現象も、よく見る風景ではないでしょうか。

これこそがまさに複雑系というシステムが『自己組織化』という機能を持っているからこそ、全体としての秩序やパターンを勝手に形成することができるという例です。

ではイワシの大群がいろんな動きをしながらもまとまりを得ているのは、なぜ可能なのでしょうか?

ここがポイントなのですが、話が長くなるので、詳細はここでは割愛します。
簡単に言うと『中央制御としての機能』があるわけではなく、シンプルなルールに基づくことで様々なパターンが形成されると理解しておけば大丈夫です。

イワシの大群は『誰かの命令に従って動いたり』『意思疎通を図って動く』のではなく、いくつかのシンプルなルールに基づいて動くことで、個々のイワシどうしが共適応し、群れ全体が秩序を持っているような現象を起こします。

ちなみにこの『ルール』こそがプレーモデルにおけるプレー原則とも言えます。
そしてそれらはヒエラルキーを持って落とし込まれることで、個人レベル、グループレベル、チームレベルで機能して行きます。
後述しますが、複雑系におけるフラクタル性も関連してきます。

このように僕の指導では、自己組織化をトレーニングに落とし込むことで『チームとしての戦術的な動きを機能させる』という部分にフォーカスしてメニューを作り、コーチングを行なっています。

創発現象

トレーニングの中心をなすのが『自己組織化』であるとお話ししました。

この自己組織化には、サッカーチームにとってももう一つ大きなメリットがあります。

それは『自己組織化を促すことで創発現象の恩恵を受ける』ということです。

創発現象とは何かというと、これもまた辞書を引用します。

要素単体の振る舞いからは予測できないような現象が現れること。(予測不可能性)

話が難しくなってきましたが、サッカーで言えば『指導者が予想もしなかったようなプレーが創造される』と言っても良いかもしれません。

なかなか話が難しく感じるかもしれませんが、自己組織化と創発現象、ここがトレーニングの一番のテーマになります。
この辺は前提条件として『サッカーを複雑系と捉えるかどうか』で指導者の判断が分かれるところではないでしょうか。

レジリエンス

レジリエンスとはしなやかさや弾力性といった意味で以下のように定義されています。

押されたり引っ張られたりした後に形や位置などを元に戻す跳ね返る力。
弾力性。撹乱から回復するシステムの能力。

僕がチームを指導する際には、当然プレーモデルを設定するのですが、プレー原則を細かくし過ぎないようにしています。
理由は簡単で、プレー原則が細かく設定されすぎるとチーム(組織)としてのレジリエンスが下がるからです。

サッカーの試合では、予測不可能な現象やイレギュラーなことが多々起こります。
それに対してレジリエンスの幅が上手く調整されていないと、チームとして機能しません。

僕の表現だと『プレーモデル過多』になり過ぎて、選手達の躍動感が消え、インテンシティが下がります。

プレー原則の曖昧さを『車のハンドル操作における遊びの部分のようなもの』と表現できるかもしれませんね。

つまり、指導者の役割は個人、チームが本来持っている自己組織化を促し、そこから創発現象の恩恵を受け、変化に対応できるレジリエンスを備えさせることだと考えています。

フラクタル

フラクタルという概念も、僕の指導の中心をなす要素です。

これもまた『サッカーを複雑系として捉えた』時に、このアイデアは非常にサッカーの指導にも活きてきます。

フラクタル(fractal)とは日本語で言うと自己相似。
僕の説明よりグーグルで検索した方がイメージしやすいかもしれません。

個人レベルのトレーニングを行う時も、グループやチームといった大きなユニットの中でも、各ヒエラルキーの中でフラクタル性を持たせています。

個人、グループ、チーム全体と切り離してみた時に、フラクタル性を兼ね備えているからこそ、構造が異なるトレーニングでも一貫したコンセプトが変わらないとも言えます。

僕がトレーニングの構造が違っても『同じ内容をコーチングする』のは、個人レベルでもグループレベルでも、フラクタル的には同じだからです。

簡単な例を挙げます。

例えば『4対2のロンド』における守備。
ボールホルダーに対してアプローチしていない選手は『ギャップを閉じてカバーリングとパスカットを狙う』。
これは守備の人数が3人4人と増えても同じです。

つまり2人組の守備のユニットでも4人組でも、フラクタル的に同じなのです。
例え人数が10人に増えても守備のラインが増えるだけで個人もグループもそしてチーム全体も同じ振る舞いを見せます。

このフラクタル性が人数によって失われると選手は混乱し、チームは機能しなくなります。

簡単な言葉で上手くプレーできる

意識すべきポイントを明確に

ここまで読んで頂いた方の中には『何か難しくてよく分からない』という方もいらっしゃるかと思います。

『選手の頭が混乱するのではないか』『練習が難しすぎるのではないか』

トレーニング理論は複雑で少し難しいですが、重要なのは次のポイントです。

『とても簡単な言葉を理解しただけで、勝手にプレーが改善される』

ここが僕の指導の重要な部分で、トレーニングで選手達に伝えることは非常にシンプルです。
また、簡単で分かりやすいというのも特徴です。

例えば「サポートは必ず斜めから縦へ動く」。
これを意識するだけでサポートの質が改善されます。

言葉は非常にシンプルなものですが、これにより幅をとる動き、パスコースを切られた時の動き直し、スペースを見つけて縦へ侵入する動きや、マークを外す動き、ダイアゴナルランなどの現象が引き出されます。

そしてこれはゾーン1におけるビルドアップ(サリーダ・デ・バロン)のフェーズでもフィニッシュのフェーズでも同じことが言える、と言う点においてフラクタルとも表現できます。

このようにシンプルな言葉を意識するだけでプレーは大幅に改善され、なおかつ勝手に上手くプレーできるようになります。

原理原則を学ぶ

日本でも『サッカーの原理原則を学ぶことの重要性』が言われていますが、僕の中での原理原則は上述したような概念になります。

『ゴールを守る』『ゴールを奪う』といった類のものではなく、『なぜかそうすると上手くいく』というのが僕の中での原理原則にあたります。

この原理原則(非常にシンプルな言葉)を積み上げることで戦術メモリーが増えるばかりでなく、成功体験を得てスキルとなって行きます。

以上が、指導の中心をなす考え方の一部です。

現代サッカーは『複雑系』を前提としていろんな理論が考えられているので、今日の話で出てきた要素は必ず押さえておくべきポイントかなと思います。

それこそ、戦術的ピリオダイゼーション理論が日本で知られだしたのが2008年頃。
今から15年以上前になりますが、この理論もサッカーを複雑系として捉えるところから始まっています。

というか、ポルトガルのポルト大学でビトール・フラーデ教授が考案したのが40年ほど前ですので、その頃から欧州のサッカーは複雑系の考えをベースに進んで来たんだろうと考えています。

そして、次回はまたまたポルト大学つながりで、現在の僕の指導の中心となってきている『エコロジカル・アプローチ』についてお話ししたいと思います。

つづく。

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